人生2周目 青春リベンジ!!!

集合場所に着くと、すでに高尾がいた。
「お、ムギ。……なんか気合入ってない?」
「えっ!?なに!?入ってないけど!普通だけど!?髪とか全然巻いてないし!ナチュラルだけど!?」
「うるさいな。誰もそこまで聞いてない」

平常心を装うつもりが、思わず全力否定で墓穴を掘るムギ。
自分でもわかってる。ちょっと浮かれてる。だって、今日は……ふみくんが来るんだから。

ほどなくして現れたふみくんとミホ。
ふみくんはいつも通りふわっとした雰囲気で、「やっほ」と軽く手をあげて笑う。
その横で、ミホはにこにこ。なのに、何かこう……背中に闘気みたいなの背負ってない?

「今日もよろしくね、ムギちゃん」
「……うん。こちらこそ」

言葉は穏やかだけど、目が言ってる。《あなた、前回寝てたくせに。今回はちゃんと起きててね?》と。

そんなミホのプレッシャーを受け流すように、ムギはふみくんの横にチラリと目をやる。
ふみくんは今日も映画館仕様のトートバッグ。そこには彼の好きな映画ロゴのキーホルダーがついていて、ムギは懐かしくて胸がぎゅっとなった。

(うわー、そのバッグ……あの時のまんま)

みんなで軽く話しながらチケットを受け取り、それぞれの席へ。
ムギの座席は、ふみくんの斜め後ろ、高尾の隣。ミホは、ふみくんの隣にちゃっかり陣取っていた。

……はいはい、そういう座り順ですね。わかってましたとも。

映画が始まる。
スクリーンに映るのは、ふみくんがかつて「これ俺の人生を変えた映画!」と熱弁していたあの作品。
彼の感動ポイントを、ムギはもう何度も聞いて知っている。だからこそ、その瞬間、ついスクリーンよりも彼の横顔に意識がいってしまう。

(まだ、この映画好きなんだな……)

そんなふみくんが、ふと振り返って――目が合った。
ニコッと笑ってくる。ムギ、心の中で絶叫。

(あーやめて!!!あなたは未来で私の夫だったの!!そんなんされたら心が揺れるじゃん!!!)

横では高尾が小さく咳払いして、ムギの肩に肘をトンと当ててきた。

(……なんでこの人ってば、察しがいいのよ)

映画が終わると、またカフェへ。
余韻にひたるふみくんが、コーヒーを飲みながらぽつりとつぶやいた。

「やっぱこの作品、いいな。何度見ても新しい発見がある」
ムギもすかさず、ふみくんのかつてのセリフをそのまま口にした。

「“変わっていく風景の中で、変わらない想いを持ち続けること”って、難しいけど、尊いっていうか……」

一瞬、時が止まった気がした。
ふみくんがハッとムギを見て、ニコッと笑った。

「一緒!俺もそこ、一番グッときてた」

(出たー!このリアクション!この未来夫!)

その瞬間、隣でストローを吸っていた高尾が――ブフォッとアイスコーヒーを噴きかけた。

「おい、高尾!?なに!?むせた!?大丈夫!?」
「……なんでもない」

(いや、絶対なんかあるでしょ)

ミホはと言えば、にこにこしながらも内心は笑ってないのが見てわかる

ムギの心の中は、もうツッコミの嵐。
でも……同時に、思っていた。

(ふみくん……やっぱり私、ちゃんと会いたかったんだ)
駅の前で、「じゃあまたねー!」と手を振るミホと高尾が、先に駅の中へ消えていった。
ふみくんとムギ、ぽつんと残る。

「……え?これ、まさかのふたり?」
「んー、まさかの、かな」

沈む夕日と、駅前のざわめき。
その中で、ふみはバッグから取り出したペットボトルを一口飲んで、ムギにぽつり。

「今日の映画、やっぱ良かったな。……ムギちゃん、あの映画、初見だったの?」

(うわ、その質問……)
ムギは一瞬、目を泳がせる。でも、笑ってごまかした。

「うん、初見。……でもなんか、すっごく懐かしかった」

「へぇ。懐かしいって、どういう感じ?」

ムギは、ちょっと迷った末、空を見ながら答えた。

「なんかね……前にも誰かと一緒に観たような気がしたの。……夢とか、記憶の断片みたいな。そんな感覚」

ふみはしばらくムギを見つめたあと、ふっと笑った。

「それ、なんかいいね。そういうの、俺も好き」



ムギは、ふみの横顔から目を逸らして、靴のつま先でアスファルトをなぞった。

「ふみくんは……あの映画は初見?」
「ううん、2回目。初めて見た時ちょっと救われたからもう一度見たくて」

「救われた?」

「なんかさ、誰かを想うってことが、未来を選ぶ力になるって……そう思わせてくれた映画だったから」

その言葉に、ムギの心が震えた。
(……ああ、やっぱり変わってない。そうだよね、ふみくん)

ふみは不意に笑いながら、ポケットから携帯を取り出す。

「てか、ムギちゃんってなんか……変わってるよね。なんか懐かしい人みたいな感じする」

(それ、私がいちばん言いたいセリフなんですけど!?)

「よく言われる。でも、それ、悪口じゃないよね?」
「褒めてる褒めてる」

ふたりの間に、ちょっとした沈黙。でも、居心地は悪くない。

「……ムギちゃんさ」
「ん?」

「また、一緒に映画行ってくれたりする?」

ドクン、と心臓が鳴った。

「うん……たぶん、行くと思う」

ふみがにこっと笑う。
その笑顔は、何も知らない無垢な未来の夫の顔。

ムギは、胸の奥で小さくつぶやいた。

(……私、ふみくんのこと、もう一回ちゃんと好きになるんだろうな)