三、契約の夜

「目が覚めたか。ずいぶん眠ったな」

 豪奢な天幕の下、天焉の寝所。
 雅美は、帝の寝衣を着せられて横たわっていた。

「な、なぜ……私、ここに……!」

「俺が連れてきたに決まっている。お前を他の誰かに触らせたくないからな」

 ベッドの傍らに座る天焉の手が、雅美の髪を梳く。

「お前が“偽り”であっても構わん。俺にとっては、“本物の欲”だ」

 そして――彼の唇が、雅美の額に触れる。

「契約しよう。お前は俺のものとなり、俺はお前の嘘を守る。代償は……お前の身体すべてだ」

「……っ、ふざけてます?」

「俺は常に本気だ」

 天焉の指が、雅美の襟元をゆっくりとほどきかけ――

「だが今は、やめておいてやろう。お前が“自分から”差し出す日まで待つ」

 彼は唇の端をゆがめ、目を細めた。

「……それまで、お前を、壊れない程度に可愛がってやる」

 ぞくり、と背筋が震えた。
 けれど同時に、雅美の胸に熱いものがこみあげていた。

(……こんな男、絶対に……好きになるはずがない)

 なのに――なぜ、鼓動がこんなにも早くなるのだろう。