二、後宮の陰

 雅美が帝に寵愛されているという噂は、瞬く間に後宮中に広まった。

「……次は、毒かもしれないよ」

 そう言ったのは、筆頭侍女の芹香《せりか》。
 雅美に心を開いてくれた数少ない存在だ。

「でも、私は負けない」

 そう返した雅美の瞳は、燃えるように真っ直ぐだった。

 ――ところがその夜、雅美が口にした薬湯に、微量の毒が混入していた。

 激しい吐き気と意識の混濁の中、彼女が最後に見たのは、赤い瞳だった。

「誰が許した。俺の妃に、指一本触れていいと」

 天焉の怒号と、容赦なく斬られる侍女たちの悲鳴。

 そして――

「……雅美、目を開けろ。お前はまだ、嘘を突き通していない」

 熱を帯びた手が、雅美の頬に触れた。