一、帝の執着

「……どうして、また私を呼んだの?」

 後宮の最奥、紅玉殿――帝・天焉の私的空間。
 その広間に一人、雅美は正座させられていた。

「どうして? ふん、わからないのか」

 玉座に腰かけた天焉が、肘を片方の膝に乗せ、頬杖をつく。
 その赤い瞳は、じっと獲物を観察するように、雅美を見下ろしていた。

「お前の嘘は、実に見応えがある。……だからもっと見せろ」

「……ただの娯楽ですか、私の命は」

「命以上に面白いものが、この宮にあると思うか?」

 天焉の声は低く、けれど艶やかに揺れる。
 その舌が雅美の存在そのものを舐め取るような熱を孕んでいて、思わず背筋が粟立った。

「……あなたは、残酷な方ですね」

「いいや、優しい方だ。こうして、お前の嘘を守ってやっている」

「守ってる? どう見ても――」

 言いかけた瞬間、天焉が立ち上がった。
 わずか三歩で、彼は雅美の背後に立ち、長い指がその髪を梳く。

「逃げも隠れもできぬよう、お前の周囲を囲ってやっている。……それを“檻”と呼ぶなら、喜んでくれ」

「檻って……まるで、飼う気満々じゃないですか」

「当たり前だろう?」

 囁くように告げられたその言葉と共に、彼の手が首筋を滑り――

「“偽りの神子”……だが、お前は俺のものになる。それが、俺の運命だと、そう感じる」

 首筋に触れた唇が、ひどく熱かった。