五、今宵の契約

 舞の終わり、雅美の耳元で天焉は囁いた。

「いい目だ。嘘を貫く覚悟がある目だ」

「なら――信じて、くれるの?」

「……馬鹿が。信じるのではない、試すのだ」

 紅椿の花弁が舞う中、天焉の指先が彼女の髪を解いた。

「これは契約だ。お前の“嘘”が破れたら、その夜に、お前の身体を……俺の好きにする」

「……最低」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 月明かりの下、彼の微笑は妖しく、底知れず、狂気すら孕んでいた。

(だけど私は、負けない。――この人に、全部を奪われたりしない)

 そう誓った雅美の心には、すでに小さな炎が灯っていた。

それは――“嘘”から始まる、本物の契りの始まりだった。