三、名前は「椛(もみじ)」

「椿じゃなくて、椛?」

「ああ。紅椿の下で出会い、椛の葉が舞う季節に、お前は母になった」

「……いい名前ね」

「だろ。俺が考えた。神意でも運命でもない――“お前との記憶”から選んだ」

 彼女は一瞬、泣きそうな顔をした。
 でもすぐに笑って、娘の頬にそっと触れる。

「椛……どうかこの子が、愛されて育ちますように」

「当然だ。……愛されすぎて困るくらい、俺が与えてやる。
 お前にも、こいつにも。生涯、飽きるまで。いや、飽きてもずっと」

 天焉の言葉に、雅美は言葉を失った。

 それは、かつて命を削り、禁呪にすら手を染めた“狂愛”が、
 いま――“優しさ”という形に昇華された瞬間だった。