二、俺の娘に触れるな

 部屋の戸が開かれた瞬間、天焉は立ち上がった。

「……俺の雅美は、無事か?」

「……はい、帝――いえ、殿下。母子ともに、お健やかに」

 天焉はすぐさま部屋へ入り、汗に濡れた雅美の額へ口づけを落とした。

「よく頑張ったな。……お前、本当に強い」

「ふふ……あなたに似て、我が儘で頑固な娘が生まれたわよ」

 その腕に抱かれていた、小さな命。
 ぐずぐずと泣きながらも、気高い顔立ちは、まるで――

「……俺に似てるな」

「ええ、だからもう大変。将来が怖いくらいよ」

 天焉は、乳母の手から赤子を奪うように抱き上げた。
 そして、誰にも見せたことのない、優しい笑みを浮かべる。

「……こいつは、誰にも触らせない。雅美以外、絶対に」

「えっ……乳母は?」

「いらん。俺が育てる」

「はっ!?」

「風呂も寝かしつけもおむつも、全部俺がやる。男なんぞ寄らせたくない。
 泣いたら俺があやす。笑ったら俺が撮る(記録術式で)。……可愛い、可愛すぎる……」

「ドSじゃなくて、もはやド変態溺愛バカじゃない……」

 雅美は呆れながらも笑っていた。

 それでも、天焉の腕の中で娘が落ち着いて眠る姿を見れば、
 その言葉もまた――優しさだった。