一、産声と、嗤う神

 その日、離宮は静まり返っていた。
 神子の血を引く雅美が、まさに今、命を産もうとしていたからだ。

 天焉は、部屋の外で誰にも話しかけられぬまま、ただ座っていた。

「……なぜ俺は、この瞬間に剣を持っていない?」

 誰も答えられない。

 だが、それは彼の心の揺れが生み出した“唯一の弱さ”だった。
 ――命を待つこと。守ること。
 それは、戦よりも苦しい。

「……雅美。おい、俺以外の誰にも触らせるな」

 そう呟いた直後――

「おぎゃあっ……!」

 産声が、夜を割いた。