三、そして、春が来る

 翌朝。
 後宮の玉座は廃され、天焉は帝位を弟に譲った。

 雅美と天焉は、後宮を離れ、辺境の離宮で静かに暮らすことになる。

「……名も地位も捨てて、一人の女として選んだあなたを、後悔してる?」

「ふざけるな。俺は、地位も命も捧げても――お前の一言、『好き』が聞けたなら、それでいい」

「じゃあ、何度でも言ってあげる。私は、あなたが――」

「もう遅い。言う前に、口塞いでやる」

「んっ……!」

 そう言って、天焉はまた、彼女を抱きすくめる。

 紅椿の花咲く離宮で、
 誰にも邪魔されない、ふたりだけの物語が――ゆっくりと、続いていく。



【完】