二、二人だけの、最初の夜

 静まり返った後宮の一室。
 外では紅椿が、春の夜風に揺れている。

 天焉の命は、雅美の力によって救われた。
 ただし、禁呪の代償で帝としての力はほとんど失われていた。

「……俺はもう、神の器ではない。ただの男だ」

「それでもいい。私は……あなたと生きたい」

「後宮も、地位も、捨てていいのか?」

「全部捨ててもいいから……あなたと過ごす、今日という日をくれる?」

 そう言って雅美は、彼の唇にそっと触れる。

 初めて、自分から彼に触れた夜だった。

 天焉の腕が、ゆっくりと彼女を抱き寄せる。