二、後宮へ

 都へ向かう輿の中で、雅美は真紅の印を見つめた。
 それは彼女の太ももに刻まれた、火傷のような痣。

(……こんなもの、神託でも何でもない)

 けれど官吏は言ったのだ。
「この印こそが、神子の証。帝はこの印を持つ妃をお求めなのだ」と。

「正体がバレれば、即刻斬首です。よろしいですね?」

 輿の外から冷たく告げられた声に、雅美は黙って頷いた。


三、初対面

「入れ」

 宮殿奥、広間に案内された雅美が足を踏み入れると、
 そこには、玉座に寄りかかる男がいた。

 帝――天焉。

 その姿を見た瞬間、空気が変わる。
 深紅の瞳が、雅美の全身を舐めるように見下ろしていた。

「……その顔。たしかに“月印の娘”だと信じたくなるな」

 薄く笑った彼が立ち上がると、音もなく距離を詰めてきた。

「だが――残念だな」

「……?」

「お前の身体は、正直すぎる」

 彼の指先が、雅美の顎を持ち上げる。

「恐れている。嘘を隠す女の瞳だ」

「……見破っているなら、なぜ私を処刑しないの?」

「面白いからに決まっているだろう」

 唇が耳元に寄り、囁かれる。

「お前の嘘を、俺の手で暴くのが――何より興奮する」

 雅美は息をのんだ。
 この男は、ただの皇ではない。何か……“狂気”がある。