一、神子を知る男

「――雅美殿。お変わりありませんか?」

 その声は、まるで風のように穏やかだった。

 後宮の庭、紅椿が咲き乱れる小道で。
 雅美の前に現れたのは、一人の青年。

 銀灰の髪に、澄んだ琥珀の瞳。
 織物のように整った衣をまとい、身のこなしはまるで神官――

「……誰?」

「暁真《あきま》と申します。かつて、神託の里でお会いしましたね。雅美様、“本物の神子”として」

「っ……」

 その言葉に、雅美の背筋が凍りついた。