四、甘い囚われ

 その夜。

 紅椿の香を焚いた寝所で、天焉は雅美を抱きしめていた。
 まだ、最後の一線は越えていない。
 けれど、その境界線は、すでに霞みかけていた。

「お前の嘘など、もうどうでもいい」

「……え?」

「この熱を知ってしまえば、嘘も真実も関係ない。……ただ、欲しい」

 唇が、鎖骨に降りていく。
 ゆっくり、ゆっくりと愛撫するように――

「全部、俺のものになれ。心も、身体も、秘密さえも」

「……そんなの、ずるいよ」

「俺は元から、ずるくて、最低な男だ」

 それでも。
 雅美は、天焉の腕の中で眠りについた。

 怯えながらも、どこか、安心していた。