一、月印の少女

 「……お前が“月印”を持つという娘か?」

 沈んだ声が、戸を開け放った瞬間、湿った空気を裂いた。
 そこには、漆黒の羽織に身を包んだ官吏《かんり》たちがずらりと並び、
 その奥に、一人の白衣の使者がいた。

 彼の手には、一通の御触書《おふれがき》――

 『神託により、月印を宿す娘を、帝の元へ召し上げる』

 「雅美……お前が行くのよ。代わりに」

 そう言って震える姉の指先が、雅美の腕を掴んだ。

 「まさか、身代わりなんて……!」

 「お願い。私じゃ、もう歩くこともできない。お前なら、あの宮で……」

 雅美は、姉の涙を拭って立ち上がった。
 この国で最下層とされる村で生きてきた彼女にとって、拒む選択肢はなかった。

 「分かった。――私が行く」

 それが、命を賭して《として》演じる“偽りの姫”としての始まりだった。

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