「なにを……始めるっていうのよ」

言葉に詰まりながらも、私は煉の目をまっすぐ見返した。
逃げたら、きっとまた同じことを繰り返す気がしたから。

「お前と、また一緒にいるってこと」

静かだけど力強い言葉に、心がざわめく。

「昔みたいに戻れると思ってるの?」

「戻りたいわけじゃない。今のお前と――ちゃんと向き合いたいだけ」

煉は言葉を選ぶように、ゆっくりと話していた。
その姿に、前よりずっと大人びた印象を受けた。

「そんなこと言われても、簡単には信じられないよ」

「信じなくていい。時間かけて、信じさせる」

「……自信あるんだね」

「ある。お前が泣いたときも、笑ったときも――全部、知ってるから」

過去の記憶が、いっきに胸にこみ上げる。
あの頃、私は煉のことが――本当に、好きだった。

でも、その気持ちに気づいたときにはもう、煉はいなかった。

(もし、あの時ちゃんと伝えられてたら……)

「考えすぎんなよ、美羽。お前、顔に出るタイプだろ」

「……うるさい」

ほんの少しだけ、笑ってしまった。