「三瀬さん、ってさ……」


口元を手で覆って、北条くんが背中を曲げた体勢でちらりと横目にわたしを見る。


「本当、真っ直ぐだよな」
「……褒めてる?」
「僕は、す……いや、羨ましいと思う」


何かを言いかけて一度飲み込んで、羨ましいと言うけれど。

真っ直ぐなのは、北条くんもそうだと思う。


何と返事をするか迷っていると、ピリリ、と北条くんの鞄から音が鳴る。

ごめん、と断って、北条くんはスマホを取り出し電話に出る。


「もしもし……うん、わかった。10分後。いつものところで……うん、ありがとう」


短い電話を終えると、北条くんはやっとこっちを見てくれた。

もう赤くない顔は、近くで見るとやっぱり、昔と全然違って大人っぽくなっている。


「三瀬さん、結構じっと見るよな……」
「ごめん、嫌だった?」
「ううん、平気。それより、僕もう帰らなきゃいけなくて。また来週、来られたら、そのときは」
「会おう!」


また来週、という言葉に、つい北条くんの話を遮って大きな声を出してしまう。

北条くんは今日初めて顔を合わせたときみたいに目を丸くして、それから、吹き出して笑った。


「うん、会おう。僕、いつもは木曜日じゃなくて、金曜日に来てて、大抵この部屋にいるから。放課後、少しでも話せたら嬉しい。立川先生にも話しておく」
「あ、そうなんだ。だから今まで会わなかったんだね」
「というか、いつもは人に会わないように気をつけてるんだよ」
「じゃあ、今日会えたのは偶然じゃな……」


偶然じゃない、と続けかけた口に、北条くんの手のひらを押し付けられる。

瞬時に手は離されたけれど、何だかお互いに言葉を交わしづらい雰囲気になってしまって。


「それじゃあ、また……」
「またね、北条くん」


掃き出し窓から外に出ていった北条くんは、関係者用の出入口方面に向かおうとしていて、途中で振り向いた。

耳を澄ませて口元を見ていたけれど、声は発さずに、手を大きく振る姿に、わたしも手を振り返した。