「僕、中学に来るの初めてじゃないんだ」
「えっ、そうなの?」
「1月から週に1回は登校してる。ずっと、ここにいるけど」


少しだけ俯き気味に言って、北条くんは続ける。


「教室には、行けないんだ。怖くて。人に何を思われているだろうって、どんな目をされるだろうって考えたら、足が竦む」


今もそうだ、と北条くんが片手を置いた足は確かに、目で見てわかるほど小刻みに震えていた。

何を思われているだろう、どんな目で見られているだろうって、北条くんの気持ちを丸ごと分かるわけではないけれど、わたしが安易に行こうと引っ張りだそうとしたことが、不安を煽ったのだとしたら。


「わたし、無神経なこと……」
「違う! そうじゃなくて……安心、したんだ。今日、三瀬さんに会うなんて思ってなかった。誰かに会う心の準備だってできてなかったけど、でも三瀬さんはずっと、変わらなくて……」


言いかけた言葉の途中で、北条くんはかっと顔を赤くする。

そのまま、わたしの方は見ずに、小さな声で呟く。


「……同じクラスだって、知ってた。嬉しかったよ」


嬉しかったという北条くんの顔を見てみたい。

俯いてしまって、さらに反対側に背けられてしまって、耳がほんのりと色付いていることしか分からない。


「わたしね、ずっと覚えてるよ」
「なにを……」
「中学でもよろしくって卒業式の日に話したこと。これ、言われて嫌だったら教えてほしいんだけど……待ってたよ、北条くんのこと」


わたしだって、今日北条くんに会えると思っていなかった。

浮き足立って、調子に乗って、余計なことを口走ったかもしれない。

それでも、会えたら伝えたかったことを我慢はしたくない。