放課後、保健室に行くと数名の生徒がいた。
保健委員の活動があるのと、怪我をした部活生も出入りをする。
ベッドのカーテンは全部開いていて、立川先生がわたしに気付いてさっきカウンセリングをしていた部屋に通してくれた。
カウンセラーの先生はもう帰っていて、ソファに座っていたのは北条くんだった。
「おつかれさま。いや、こんにちは?」
「よう、とかでいいんじゃない?」
「じゃあ、よう」
立川先生はすぐに保健室に戻って、この部屋にふたりきり。
言いながら片手を上げた北条くんは、とんとんとソファを叩いて隣に座るように促してくれた。
一瞬、テーブルを挟んだ向かいに座るか迷って、カウンセリングじゃないんだからって言われて、北条くんの隣に腰を下ろす。
「なんか、顔色悪い?」
「そうかな……木曜日で疲れたからかな」
さっきの教室での出来事が顔に出てしまっていたのかと、慌てて表情を明るくする。
「嘘つき」
そんなことを見透かして、嘘だと言ってしまえるほど、わたしたちの仲は親しくないはずだ。
北条くんこそ顔色悪いよ、と無遠慮に言えるわけがないくらいには、友だちと呼べるのかすら怪しい。
気まずくなるのが嫌で、別の話題を持ち出そうとしたとき、北条くんが先に切り出した。
「さっき、ごめんな」
「え……?」
「立川先生と話してたの、聞こえてた。行けなくてごめん、教室」
「それは……体調もあるし、急には行けないよね。わたし、全然北条くんのこと考えられてなくて」
「ううん、違う」
初めての登校で、初めて教室に行くのが帰りのホームルームだなんて、きっと行きにくかっただろう。
北条くんがいたことが嬉しくて、浮き足立っていたことを反省していると、北条くんは予想と違う反応をした。



![[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.759/img/book/genre99.png)