小学2年生から6年生までに送った寄せ書き。
文字が整うようになって、ひらがなが漢字になって、わたしも最初は『りまくん、早く元気になってね』なんてありふれたメッセージを書いていた。
いつか北条くんが話していたように、学校であった出来事を書くようになっていたのは4年生以降。
他の子が一言二言で書いている中、小さな文字を何行もぎゅうぎゅうに詰め込んで、きっと読みにくかったと思う。
「そういえば、手紙を書いたって言ってたよね。わたしへのお返事」
持ち歩いていたけれど、渡せなかったっていう手紙のこと。
ふと思い出して口にしたら、北条くんはぎくっと肩を跳ねさせる。
「……なんのこと?」
「とぼけるのはずるいよ。あ、もう捨てちゃった?」
「ある、けど、今更読まなくていいよ」
「わたしが読みたいんだもん。ね、ほしいな、手紙」
これが学校での会話なら、家に置いてあるからって断られたかもしれない。
でもここは北条くんの家で、言い訳なんてできないって諦めたのか、北条くんは引き出しを開けて一通の手紙を出した。
淡い水色の手紙には、三瀬結衣さんへ、と書かれていて、間違いなくわたし宛ての手紙だとわかる。
渡してくれるのを待っていると、北条くんはきちんと宛名をこちらを向けて、両手で差し出してくれた。
何となく、緊張感が漂っていて、わたしも背筋を伸ばして両手でしっかりと受け取る。
北条くんはすれ違うようにソファに戻ったけれど、わたしはその場で手紙を開いた。



![[短篇集]きみが忘れたむらさきへ。](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.763/img/book/genre99.png)