北条くんの姿はなかった。
さっきは開いていたはずのベッドのカーテンがひとつ閉まっていて、立川先生がそこから出てきた。
「三瀬さん、このまま教室に戻っていいよ」
「北条くんは?」
ここにいるのなら、教室に一緒に来たらいいのに。
そう思って聞くと、立川先生は苦い顔をしてわたしの方へ来て、そのままぐるんっと肩を押して方向転換させられる。
「帰りのホームルームが終わったらまたここにおいで」
「……はい」
何となく、あんまりしつこく言うべきじゃない気がして。
閉められたカーテンをちらっと見て、教室に戻った。
ホームルームまでの僅かな時間、朱那が取っておいてくれたプリントを受け取って、帰り支度をしていると隣の席の子に声をかけられる。
「ねえねえ、三瀬さん。さっきどこにいたの?」
「え、えっと、保健室……」
「あ、そうなの? 音楽の先生が、カウンセリングに行ってるって話してたから」
きっと何の気なしに聞いたことなのだろうけれど、どきっとしてしまう。
決まった曜日に授業に出ない日があったら、自分でそうだと言わなくても気付く人はいると思う。
隠しているわけでもないのに、とっさに出たのが保健室って嘘だったこと、音楽の先生が他の生徒にそう伝えたんだってことに動揺してしまう。
聞いてきた子はそれ以上何も言わなかったし、すぐに担任の先生が来て帰りのホームルームが始まった。
先生の話の間も、心臓がどくどくと嫌な音を立てる。
ああ、よくないな、気持ちがぶくぶく泡立つ感じ。
カウンセラーの先生と話して詰まりの取れたはずの心がざわざわとするのを感じて、ぎゅっと目を閉じてやり過ごした。



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