写真に写っていたのは、小学生の頃のわたしと北条くん。

学校ではない場所、どこかの花畑を背景にふたりで笑っている写真だった。


「これ、もしかして宿泊学習のときの……」
「そうだよ」


北条くんは不貞腐れた様子で、よっぽどこの写真を見られたくなかったらしい。

わたしも北条くんも背丈はあまり変わらなくて、他の誰も写り込んでいないその写真は、場所に見覚えがなければいつ撮ったものなのかわからなかったと思う。


「泊まりには行けなかったけど、自然体験の時間だけ参加してた」
「え、でも、班は違ったよね?」


記憶が曖昧だけれど、この公園では班ごとに分かれてそれぞれ違う場所で自然体験をしていたはずだ。

北条くんとふたりになった記憶も、この写真にも覚えがない。

宿泊学習のときの写真なら、自分の写ったものは一通り購入して家にある。

でも、これと同じ写真は見たことがなかった。


「カメラマンの人がいないときに、僕が頼んで、先生に撮ってもらったから」
「そう、だっけ?」
「やっぱり、覚えてないんだな」


つんと唇を尖らせて、拗ねたように言われても、覚えていなかった。

きっと、移動時間の合間に急いで撮りでもしたのだろう。

記憶にはないけれど、わたしも北条くんも笑っている。

このときのわたしも、北条くんがいて嬉しかったと思う。


「そんなの、わからないだろ」
「きっとそうだよ。わたし、こんなに嬉しそうに笑うことないよ」
「いや、笑った顔は変わってないから、三瀬さん」


わたしはどちらかというと、写真に写るときぎこちない笑顔になってしまうから。

自然体で笑うとこんな風なんだって、自分の顔なのに少し不思議な気持ちで見てしまう。

笑った顔が変わっていないということは、つまり北条くんの前ではいつもこんな風に笑えているのだろう。

そのことを何か言うのは恥ずかしくて、写真立てを置いて色紙を手に取る。