◇
北条くんは何度もわたしの気持ちを聞きたがった。
何度口にしても慣れないわたしと、何度聞いても嬉しそうに笑う北条くん。
先に白旗を上げたのはわたしだった。
頭から蒸気が出そうなほど茹だっていて、北条くんが空調を調節してくれる。
全身の力を抜いてソファにもたれていると、北条くんも隣にきちんと座り直した。
一度は離れた手を、しっかりと繋ぎ直される。
「僕が言いづらくさせてしまっていたなら、ごめんな」
「ううん、伝えるつもりは、なかったから」
「そっか」
もう隠し事は何もない。
結果的に告白してしまったけれど、本当は伝えるつもりはなかったことを言うと、北条くんはそっと目を伏せた。
「好きってすごいね」
文字が目に見えるとしたら、今わたしたちの足元にはそれがたくさん転がっている。
どれだけ伝えても、まるで伝わっていないような気持ちになる。
とめどなく、溢れてくる。
「隠していようなんて、たぶん無理だった」
この気持ちをなかったことにして北条くんと一緒にいることも、この気持ちを抱えたまま北条くんと離れることも。
たぶん、どちらも無理だったと思う。
遅かれ早かれ、わたしは北条くんに会いに来ていた。
そう伝えると、北条くんは顔を赤く染めて、それから両手で頭を抱える。
「……吹っ切れた三瀬さん、こわい」
「何か言った?」
北条くんが小声でぽそっと呟いたことが拾えなくて、聞き返すけれど教えてくれない。
形勢逆転、と北条くんの顔を覗き込むと、更に赤くなって顔を背けられた。
それでも、手は繋いだままなのがおかしくて、笑ってしまう。



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