「三瀬さんが嫌になったのなら、僕は止められない。でも理由がないなら、離せない」


北条くんに握られた手を、どうにかもがいて逃れようとするたびに、力は強くなっていく。

そしてその分、距離は縮んで、今は至近距離に北条くんがいる。


「……離したくない」


耳元に落とされた声は、震えていた。


「離して……っ」


これ以上、聞いていてはいけないと思った。

だって、北条くんの声は震えていて、そして、少しだけ感じ取れた熱は、わたしの持つそれときっととても似ている。


力いっぱいに北条くんの手を振りほどいて、部屋を出ていく。

廊下に出てしまったら、北条くんは追いかけては来られないから。

そんなずるい手段を使って、廊下を走る。


「三瀬さん!」
「……なんで」


絶対に来ないと思っていたのに、北条くんは相談室を飛び出して、わたしを追いかけてくる。

下校のピークは過ぎて、部活も始まっているから廊下にはほとんど人はいないけれど、それでも行き来する人はいる。

北条くんは構わずに走ってきて、わたしも逃げようとするけれど、足がもつれてへたり込む。


「三瀬さんに、言いたいことがある」


北条くんは、逃げたことを咎めるでもなく、わたしの前に膝をついた。

すぐに立ち上がれないのに、往生際悪く体を反って避けようとすると、追いかけた手がわたしの手を掴む。

そうして、また、ちぐはぐに絡まって。


「三瀬さん、僕……」


何かを言いかけた北条くんの頭がぐらりと傾いて、わたしの肩口にもたれるように、倒れた。