北条くんが息を整える間に、わたしもバクバクと嫌な音を立てる心臓を落ち着かせる。
大丈夫、北条くんの顔色は悪くない。
「三瀬さん」
ベンチに座る北条くんの前に立って、動けずにいるわたしは顔を見られないように深く俯いた。
いつもは後ろで結っている髪の毛が顔の脇に垂れて、どうか今のわたしの顔を見られないようにと意固地になっていると、不意に冷たい何かが頬に触れた。
髪の隙間をくぐって、頬にぴたりと当たっていたのは、北条くんの指先。
驚いて、つい顔を上げてぱちぱちと目を瞬く。
北条くんから触れたくせに、何故か北条くんも目を見開いて固まっていた。
「……っ」
声を出したら、名前を呼んだら。
きっとこの手は離れてしまう。
だから、言葉にはせずに、頬をなぞるように触れる北条くんの指先を、わたしの手のひらで包む。
北条くんは見開いていた目を少しずつ細めて、やがて泣き出しそうに唇の端を歪めた。
きっと、わたしも同じような顔をしていたのだと思う。
しばらくして、北条くんが行こうかと小さく呟いた。
わたしは頷いて、閉じ込めていた北条くんの手をそっと解放する。
立ち上がって歩き始めた北条くんの背中を追いかけた。



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