繋いだ手、結んだ指先で。






翌日の土曜日、午後2時に約束の場所に着く。

待ち合わせ場所に指定されたのは、その名前が最寄りの駅名にもなっている湖畔の公園。

入口の近くで辺りを見渡すけれど、北条くんらしき人の姿はない。


持っていた手鏡で前髪を整えたり、服装におかしなところがないかを確かめていると、前方から手を振る人が近付いてくる。


「結衣ちゃん!」
「お姉さん?」


昨日会ったばかりの、北条くんのお姉さん。

慌てた様子で駆け寄ってくるから、北条くんに何かあったのかと心配になる。


「北条くんは……」
「あー、心配しないで。真反対の入口で下ろしちゃって、今向かってると思うから」


そんな連絡はなかったのに、とスマホを手にしかけて、そもそも連絡手段がなかったことを思い出す。

出しかけたスマホを仕舞ったのを見て、お姉さんは首を傾げた。


「もしかして、理真の連絡先知らない?」
「はい。今まで、何となく聞けてなくて」
「うわ、じゃあやっぱり昨日の私邪魔しちゃったね。ごめんね。これ、私の連絡先も渡しておくから追加しておいて。もうすぐ来ると思うから、今日は楽しんでね」


あらかじめ用意していたらしいメモをわたしに手渡して、お姉さんはさっさとどこかへ行ってしまう。

渡されたメモには【理真のこと、今日はよろしくお願いします】と丁寧な字で書かれた下に、電話番号が載っていた。

その番号をスマホに登録していると、息切れと共に北条くんの声が聞こえた。

声のした方を見ると、ぜえぜえと肩で息をする北条くんの姿がある。


「三瀬さっ……ごめんっ、お待たせ」
「えっ……走ってきたの? 座ろう、お水買ってくるから」


青白い顔で息を切らす北条くんをすぐに近くのベンチに座らせて、自販機まで走る。

ペットボトルのお水を買って戻り、北条くんに渡した。


「ごめん、本当に。誘っておいて遅刻とか……」
「いいから、先に飲んで!」


明らかに、気にするところはそこじゃない。

自分で思うよりも声が大きくなってしまって、怒っているように見えたのか、北条くんはびっくりした顔で大人しく水を飲んだ。