春休みに出ていた宿題を見直していると、教室に人が増えてきた。
去年同じクラスにいた子には挨拶ができたけれど、特に仲のよかった子たちとはクラスが離れてしまっている。
どうしようかなあ、とすでに人が集まっている輪の中に加わりにいこうと立ち上がったとき、後ろからぽんっと肩を叩かれた。
「結衣! 同じクラス!」
「朱那? えっ、やった! 同じだったんだ」
「もう、私の名前見なかったの?」
朱那は小学校からの友だちで、宿泊学習や修学旅行の班も一緒だった。
去年はクラスが違って、合同授業で顔を合わせたときに話す程度だったけれど、まずはひとり仲のいい子を見つけてほっとする。
「結衣がいるってことは、北条くんも同じクラス?」
「うん。そうだよ、前の席が北条くん」
「すごいね、記録更新してるんだ。それで、去年はどうだった? 学校に来てた?」
「……ううん。一度も会ってない」
「そっかあ……入学式の日もいなかったし、本当に一日も来てないんだ。やっぱりずっと入院してるのかな」
入院、という言葉にどきっとする。
北条くんと一度でも同じクラスになったことがある人なら、知っていること。
病気の治療で小さいころから入院してるって。
小学生のとき、たまに学校に来ることはあっても、保護者が付き添って数時間だけだった。
中学生になってからは、一度もその姿を見ていない。
朱那の言うとおり、入学式にもいなかったから、中学から一緒になった人は顔も知らないと思う。
その後担任の先生が来て、最初に北条くんのことを話した。
病気で入院していること、もし教室に来られたときには、皆あたたかく迎えてあげてほしいって内容。
なぜか聞き覚えがある気がして、去年も同じことを聞いたんだってあとから思い出した。



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