立川先生を呼んでくるかとか、薬か何か持っているかと聞いても、北条くんは首を横に振る。

途方に暮れていると、数分後には北条くんはけろっとした顔で、そういえば、と切り出す。


「三瀬さんは誕生日いつ?」
「それ、絶対に今聞くことじゃないよ」
「僕は聞きたいことはすぐに聞くから。いつ?」
「3月……1日」


さっきまでの様子とは打って変わって、いつもの調子に戻った北条くん。

突拍子のない質問をされるのも、変といえば変だけれど、いつも通りと言われたらそれもそうかと納得できた。


「北条くんは?」
「明日」
「……ん?」
「明日だよ、僕の誕生日」


何でもないことみたいに言うから、開いた口が塞がらずにぽかんと瞬きをすることしかできない。

自分の誕生日が明日、なんて状況で、誕生日の話題を出せるのは北条くんらしいともいえる。


「わたし今日は何も持っていないよ」
「うん、いいよ。明日だから」
「……えーっと……?」
「明日、三瀬さんと出かけたい」


わたしがあえて近付きすぎないようにしたから、手も肩も触れていないのに、目が合っているだけで動きを止められているような心地になる。

北条くんとは、週に一度だけしか会えなくて、それが変わることはないって思ってた。

わたしが返事をする立場なのに、本当にいいの? と聞き返してしまいそうになる。


「……平気なの?」


体調が良いのならまだしも、さっきの様子を見せられて、自分の気持ちだけを押し出すことはできない。


「無理はしないから、お願い、三瀬さん」


平気だとは言い切らなかったことに一抹の不安を感じながら、それならと了承する。

行きたい場所があるようで、集合場所はここ、時間はいつ、とわたしの都合を聞きながらトントン拍子に話が進んでいく。