息が浅くなって、苦しくて。

聞き覚えのないはずの声、確かに、聞いたことのなかった声。

姿も知らないはずの誰かの声が、今はぴったりと重なる。


「……三瀬さん、大丈夫。北条くんはいるよ」


向かい合って座った立川先生は、わたしの手を包んでさすってくれた。

わたしが何を不安がっているのか、何を感じているのか、ひとつも伝えていないのに、立川先生は全部お見通しみたいだった。


「今日はもう、帰る?」


気遣うような問いかけに、少しだけ心が揺れる。

こんな不安定な状態で北条くんといても、心配をかけてしまうだろうから。

数秒考えて、首を横に振った。


「ううん。北条くんといる」
「そう。それじゃあ、荷物持って。いっておいで」


くしゃっと髪の毛を撫でられて、とんっと背中を押される。

廊下ががやがやと騒がしくなってきていて、もう少し心の準備をしてからなんて言っている時間はなさそうだ。

すうっと大きく深呼吸をして、隣の部屋へのドアを開ける。


北条くんはソファに座って、目を閉じていた。

その顔は、少しだけ、辛そうに見える。

頭痛があるのはお姉さんと言っていたから、きっと北条くん自身はそうじゃないのだろう。


だとしたら、今きつそうなその理由は別にあるはずで。

わたしが入ってきたことに気付いて、まつ毛を震わせながらゆっくりと目を開けたあとも、辛そうに再びぎゅっと瞼を閉じていた。

数拍置いてから、またゆっくりと目を開けたときにはいつもの表情を浮かべていたけれど、誤魔化されはしない。


「……北条くん、体、きつい?」


ソファの隣に、ひとり分の間隔を空けて座る。

北条くんの顔色を窺いながら、小さな声で尋ねると、僅かに顎を引いて頷いた。