「三瀬さん、起きてるー?」


保健室のドアが開く音と同時に、立川先生の呼ぶ声が聞こえた。

布団にくるまっていたわたしよりも早く、北条くんがカーテンの外に出て返事をする。


「起きてるよ」
「え、北条くんまさか勝手に三瀬さんの所に入ってたの?」
「立川先生が出ていく前に、三瀬さんが寝てるって教えてくれたから」
「教えただけよ。寝てる人の所には入らないで」


いつもは温厚な立川先生のちょっと怒った声に、北条くんは素直に謝っていた。


カーテンの向こう側での会話。

以前にも、同じことがあった。

季節をいくつか巻き戻した、1年生の頃のことだ。

今と同じこのベッドの上で、頭痛に耐えながら、立川先生と聞き覚えのない“誰か”の声を聞いた。


『立川先生、僕、もう──』


頭の中で再生される声を遮るように、ベッドから飛び起きる。

いきなり体を起こしたからかぐわんと頭が揺れるけれど、構わずにカーテンの外に出た。


「……立川先生」
「三瀬さん、顔色は……まだ良くないね」


立川先生の後ろに見えた時計は最後の授業を終えた時間を示していて、立川先生の手にはわたしの荷物があった。

どうする? 迎えに来てもらう? と立川先生が聞いてくれているのに、わたしの頭の中にはいつかの記憶がぐるぐる回って止まらない。

北条くんがすぐ近くにいるのにも構わずに、立川先生にしがみつくと、すぐに様子がおかしなことに気付いたらしい。


「北条くん、向こうの部屋に行っていて。この後は委員の子たちも来るし」
「わかった」


すぐに北条くんが去っていく気配がして、ドアの開閉音も聞こえた。

立川先生はわたしを支えながら、さっきまでいたベッドに戻ろうとしたけれど、首を横に振ると椅子に座らせてくれた。