離れていく手を、まだ少し名残惜しいと思ってしまったことが伝わったのか、北条くんは最後にもう一度手を上げる。

今度はその手を平たく広げたまま、わたしの目元を覆った。


「北条、くん」


さっきから、返事をしてくれないことが気になって。

姿も遮られて見えないし、と抗議しようとしたところで、がざされた手が、その指先が、震えていることに気付いた。


北条くん、ともう一度声をかけようとしたとき、ぽすっと肩に重い質量が乗っかる。

ふわふわの髪の毛がわたしの首筋に当たって、わたしよりも少し低い体温が、触れたところからじわっと溶け合う。


「北条くん! な、なにして……」
「……三瀬さんに、お願いがあるんだ」
「……なに?」
「手を、握ってほしい」


声が、あんまり切なくて、か細くて、消えてしまいそうだったから。

だらん、と垂れた北条くんの腕を探り当てて、指先で辿っていく。

捕まえた手には、ほとんど力が入っていなかった。

冷たくて、細くて、でもわたしよりも大きな手を、しっかりと握る。


顔のすぐそばで、北条くんがほっと息をつくのを感じた。


何か、突然に不安になるようなことがあったのかな。

わたしのこの手が、北条くんの助けになれるだなんて思わないけれど、少しでも「大丈夫だよ」って伝わるように、ぎゅっと握りしめた。