「泣かないで、三瀬さん。ごめん、きもかった? そんな何年も前のこと、覚えてて」
「うれしかった」


そんなわけない、違うんだよって伝えたくて、でも涙に遮られて短い言葉しか出てこなかった。

嬉しかった、ただ、それだけ。


「僕も嬉しかったよ。そのときも、今も。返事だって、書いてたし」
「お礼の手紙なら届いてたよ。教室に貼ってた」
「うそ、貼ってたの? 恥ずかしいな……じゃなくて、三瀬さんへの返事を書いてたんだ」


北条くんからの返事が届いたら、クラスの皆で読んでしばらくは教室の壁に貼っていた。

北条くんの文字は整っていて綺麗で、わたしはたまに足を止めて読み返していたこともあった。

懐かしいな、と思い出に浸る前に、何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がして、涙もぴたっと止まる。


「わたし、もらってないよ」
「いや、うん……渡せなかった、から」
「誰かに預けなかったの?」
「直接渡したくて、預けたりはしてない」
「小学生のときなら、何度か登校してたよね」
「でもさ、皆の前で渡せなかったよ。毎回、持って行ってたけどさ……」


そんなこと、知らなかった。

北条くんはばつが悪そうに語尾を小さくしていく。


小学生の頃は、北条くんは学校に来ると男子を筆頭としたクラスでも社交的な子たちに囲まれて、わたしはあまり近くには行けなかった。

北条くんの周りから人がいなくなったときに、一言二言交わす程度で、もっと話したいという気持ちはあったけれど、叶わずにまた会えなくなってしまっていた。