「嫌だったよね、北条くん」
「僕に聞けばいいのになーって思っただけだよ。嫌なんじゃなくて、悔しいとか、そういう気持ち」
「くやしい……?」
「遠慮なく聞いてもらえるくらい仲良くなりたいと思った」


まさか、そんな風に北条くんが思っていたとは予想もしていなくて。

確かにそれは、わたしの中にはなかった考えだとどこか納得してしまう。

仲良くなりたいと思っているのは、わたしも一緒だから。


「三瀬さんが覚えているかはわからないけど、小学生のとき、寄せ書きをくれたことがあっただろ」
「え、うん。何枚か書いたよ。ずっと同じクラスだったし」
「小4くらいからかな。三瀬さんの寄せ書きだけ、他の子と違っていて」


毎年、北条くんに向けて寄せ書きを送っていた。

学年ごとに、1枚だったと思う。

同じクラスだから当然、毎年わたしも書いていた。


何を書いたかなんて細かいことは覚えていなくて、でも他の子と違うということは、何かよくないことを書いたのかもしれないと不安になっていると、北条くんはふっと柔らかい笑みを浮かべる。


「三瀬さんだけは、今学校でこんなことしてるよって教えてくれてた。頑張れとか、待ってる、とかじゃなくて」
「あ、確かにそんな内容だったかも。学校でしていることがわかった方が、楽しみになって、元気にもなるかなって」
「本当に、その通りだったよ。理科の実験とか、校外学習とか、面白そうだなって思ってた」


わたしの知らない場所で、病気と戦っている北条くんの力になればいいと思って書いた言葉たちだった。

でもそれは、大勢の中のひとつ。

そのたったひとつの、わたしの寄せ書きが、北条くんの中に、今こうして思い返して語れるほど大きなものとして残っていたんだってことが、嬉しくて。


「北条くん……」


目元がじんわりと熱くなる。

名前を呼んだのはほとんど無意識だった。

呼んだからこっちを見てくれたのに、わたしは泣き出しそうな顔を見られたくなくて俯いた。