「立川先生、今何言おうとしてた?」
「やだもう、聞き耳? 何でもないよ」


北条くんが怖い顔をしても立川先生はさらりと流して、わたしの背中を押して隣の部屋に押し込んだ。

北条くんは何故か壁に頭をくっつけて動かなくなってしまうし、先に座るのも悪い気がしてその肩にそっと触れる。


「あの……わたし、何も聞いてないよ。聞こえなかったっていうか……」


具合が悪くてもたれているという感じではなかったから、思っていたことをそのまま伝えると、北条くんはちらっとわたしを見て目を細めた。


「それはさ、いいんだけど、立川先生も言っていたように、三瀬さんの気になることは僕に聞いてほしい」
「それって……」
「聞かれて嫌なこととか、答えたくないことは、ちゃんと選べるから。何でも言っていいんだよ」


笑いも怒りもせずに、北条くんは少しだけ寂しそうに言った。

自分のことなのに、自分には聞かれないなんてわたしが同じ立場でも嫌な気持ちになる。

気遣いや心配が根っこにあって、優しさで突き動かされたものだとしても、相手が嫌だと感じたのなら本末転倒だ。


この間から、北条くんに嫌がられるようなことしかしていない。

北条くんの肩に置いていた手を離して、ごめんなさい、と小さく口にすると、座ろうか、とソファを指さされる。