翌週、金曜日が来るのが待ち遠しくて、それなのにいざ金曜日になるとそわそわとして落ち着かず、朱那には何か今日変じゃない? と聞かれてしまう。

部活に行く朱那と玄関まで一緒に行く途中で、トイレに行ってから帰ると伝える。


「結衣、その嬉しそうににやにやしてる理由、今度聞かせてよー?」
「に、にやにやはしてないでしょ!」
「トイレの鏡でよく見てみなよ。じゃあね、また来週」


何故か朱那の方がにやにやとしながら、玄関に向かったのを見てわたしは足を保健室の方に向けて歩き出す。

途中で、朱那の言ったとおりにトイレに寄って鏡を見てみると、確かに顔が緩んでいるような、でもいつも通りのような。

まじまじと自分の顔を見ることなんてないから、何だかよくわからなくなってしまって、頬をぱちんと叩いてから保健室に行くと、今日は立川先生だけがいた。


「あ、きたきた。三瀬さん、聞いてるよ。北条くんなら隣にいるからね」
「そっちから入っていい?」
「はい、自由にどうぞ」


保健室と続いたドアから入る許可をもらい、ノックする前に立川先生を呼び止める。


「北条くん、体調はいいんですか?」
「調子が悪いときは来ないし、顔色も今日はいいよ。それ、北条くん本人に聞いてもいいんじゃない?」
「わたし、北条くんの普通ってわからないし……全然気付かないのも、気を遣いすぎるのも、違うとは思うんだけど、でもその加減を北条くんの前ではきっとすぐにはできない」


北条くんは違うと言ってくれたけれど、知らなかったらまた無神経で失礼なことを口にしてしまうかもしれない。

言葉ひとつ間違えたくないと思うことすらも、北条くんが教室に行きづらい理由に含まれてしまう気がして。

要するに、同情や奇異の目を向けられたり、過度に気遣われるかもしれないってことが北条くんの憂いなのだろうから。


「うーん、聞いてみていいと思うよ。何が嫌かは、ちゃんと教えてくれるから。それに北条くん、三瀬さんのこと結構……」


バターン! という大きな音に遮られて、立川先生の話の最後の方は聞こえなかった。

真ん前にいたら、顔面にぶつかってとんでもないことになっていたと思うくらいに強く開けられたドアの向こうには、これでもかって程に眉を寄せた北条くんがいた。