次の週の月曜日。
教室に入ると、いつものように由梨と沙耶が元気に騒いでた。
「七星〜!」
「おはよー!」
「おはよ」
私はいつも通りに笑顔を作って席に着いた。
沙耶がすぐにお弁当袋を机に置きながら、ヒソヒソ声で寄ってくる。
「ねぇ、最近さ」
「ん?」
「黒兎連合、またなんか揉めてるらしいよ?」
「……は?」
私は一瞬だけ動揺してしまう。
けど何気ないふりで聞き返す。
「それ……どこ情報?」
由梨も横からコソコソ声で入ってくる。
「うちの近所の人が言ってた〜。なんかこの前もバイク集団が集まってたとかで騒ぎになってたって」
沙耶がさらに小声で続けた。
「なんかさ、最近また他のチームとヤバい感じらしいよ?前に一回落ち着いたって言ってたけどさ、あれ嘘だったんじゃないの?」
私は無言で少しだけ首を振った。
「……別に……お兄ちゃんに聞いても何も言わないし」
由梨が少し不安そうに言う。
「でも七星のお兄ちゃんも巻き込まれてたら危なくない?」
「……大丈夫だよ」
そう言いながら、私は小さく胸の奥がざわつくのを感じていた。
お兄ちゃんは平気そうにしてるけど
凪くんとの電話のやり取り――
『あいつら、またこそこそ動いてるらしい』
『今はまだ手出すな』
あの声がずっと頭に残ってる。
沙耶がため息混じりに続けた。
「てかさー、ほんと族とか怖いわー。うちら普通に生きてるのが一番!」
「……ほんとね」
私は無理やり笑って誤魔化した。
だけど心の奥では
普通じゃない場所で兄が動いてる現実を、やっぱりちゃんと感じてしまっていた。
***
いつもの日常は、こうして表面だけは静かに流れていく。
でもその裏で
確実に、何かがじわじわ動き始めていた――



