黒兎の相棒は総長でも止められない



 

 

その週の土曜日。

天気はどんより曇り空。
昼過ぎ、私は一人で商店街まで買い物に出ていた。

 

(お兄ちゃんも今日は族の集まりとかで不在……)

 

予定もないし、のんびり日用品を買いに来たはずだったんだけど。

 

スーパーの袋を片手に出てきたその瞬間――

 

目の前で、黒い車のドアが開いた。

 

「……は?」

 

鷹宮凪くんだった。

 

向こうも少しだけ目を細めて私を見ていた。

 

「……よく会うな」

 

「……偶然でしょ」

 

思わず視線をそらす。

けどそのまま立ち去るのもなんとなく気まずくて
私は仕方なく少しだけ立ち止まった。

 

「……なにしてんの?」

 

凪くんは手に持ってた袋をチラッと持ち上げる。

「買い出し」

 

「……ふうん」

 

「兄貴の頼み」

 

「ああ……また使いっぱ?」

 

「まあな」

 

相変わらず無愛想。
だけどなんだろう、この
“必要最低限だけは返してくる感”が地味にムカつく。

 

「ほんっとお兄ちゃんさ……私にも凪くんにも雑すぎ」

 

「まあ、いつも通りだろ」

 

「……ほんとそう」

 

そう言って私は買い物袋を軽く持ち直した。

「じゃあ、私もう帰るし」

 

「……重いだろ、それ」

 

不意に凪くんがポケットから片手を出して
私の袋を取るように軽く指を伸ばした。

 

「は?」

 

「貸せ。車まで送ってく」

 

「いや、自分で持てるし!」

 

「いいから」

 

有無を言わせない低い声。

自然と渡してしまう自分が少し悔しかった。

 

「……別に頼んでないんだけど」

 

「文句言うなら置いてくけど?」

 

「……っ、ほんとムカつく」

 

口ではそう言いながらも、
車までの短い距離を二人で歩いていくのが
なんだか妙に落ち着かない時間だった。

 

(……ほんっとなんなの、この人)