「なに、そんな顔して」

 

隣で運転してる凪くんが、ちらっと私を見て言った。

 

「……え?」

 

「顔緩んでんぞ。そんなに俺の隣が嬉しいわけ?」

 

「~~っ…! いちいちそういうこと言わないでってば!」

 

「図星?」

 

「……うるさい」

 

思わず視線を逸らして窓の外を見つめる。
けど、その頬は熱くなってるのを自分でもわかってた。

 

凪くんが小さくクスッと笑う。

 

「でも――俺の隣は、お前の指定席だから」

 

その低い甘い声に、また胸がドクンと跳ねた。

 

(ほんとに、ずるいんだから…)

 

車はゆっくり家へ向かって進んでいく。

この穏やかで、でも心臓だけは落ち着かせてくれない日常。
今では、それが当たり前になっていた。

 

(……あの頃は、こんな未来が来るなんて想像もしなかった)

(だけど――今は、迷わず言える)

 

私はそっと凪くんの腕に手を伸ばして、そっと握った。

 

「これからも…ずっと隣にいてね」

 

凪くんは短く答える。

 

「ああ、任せろ。」

 

そして――静かに唇が重なった。

 

(この人となら、全部預けられる)
(どんな未来でも、大丈夫)

 

静かな夜の中、ふたりだけの甘い時間が流れていった。

 






―― 完 ――