それから数日――
夜になると、胸の奥がずっとざわざわしていた。
凪くんからの「出るな」の一言。
それだけで、空気がいつもと違うのは嫌でもわかった。
兄も、帰宅は遅い日が続いてる。
帰ってきてもどこかピリピリしていて、私にはあまり話さなくなっていた。
(…ほんとに…今、ヤバいんだ…)
どれくらい緊迫してるのかも分からないまま、私はただ家にいるしかなかった。
そんなある日。
夜、リビングでニュースの音をぼんやり聞いていたときだった。
スマホが震える。
【外出んなよ】
また、凪くんからのLINE。
今日も同じ注意。
けど――そのあとに続けて送られてきた短い一文。
【もうすぐ終わる】
その文字に、少しだけ息が詰まる。
(……終わる、って…)
(終わるまでに…何があるの…?)
頭では考えないようにしても、胸の奥では不安が膨らんでいく。
次の瞬間、玄関のドアが勢いよく開く音が響いた。
兄だった。
「あ、お兄ちゃ――」
「……外出るなよ。絶対に」
低く短い声。
普段と違って、妙に緊張した空気が滲んでる。
「え…でも、なにか――」
「今は関わんな。余計な心配すんな」
食い気味に遮られた。
兄はリビングのソファに乱暴に荷物を投げて座り込み、すぐに何本もスマホを並べて連絡を取り始めた。
(…ほんとに…もう始まるんだ…)
私は黙ったまま、背中に緊張を残してゆっくり自室へ戻った。
胸の奥のドクドクが静かに速くなる。
(……凪くん…お兄ちゃん…)
祈るように両手を組んだその指先まで、微かに震えていた。
*
そして――その翌晩。
窓の外は妙に静かだった。
でも、静かすぎるほどの夜が逆に張り詰めた緊張感を漂わせていた。
凪くんからLINEが入る。
【今夜動く。もう何も起こらせねぇように片付ける】
(……今夜…)
息が詰まりそうになりながらスマホを強く握る。
怖い…
静かに涙が滲みそうになり、私は目を閉じた。
嵐は、いよいよ本当に動き始めていた――
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