数日後――
珍しく兄が迎えに来た。
駅前で待っていると、前に見慣れた黒い車が停まっていた。
凪くんの車。
兄がすぐに気付いて、ハンドルを止める。
「お、凪じゃん」
その瞬間、凪くんの運転席の窓が下がる。
低く落ちる声が響いた。
「お疲れ」
「おう、凪。来てたなら言えよ?」
凪くんはちらっと私を見てから、わざと口元を緩めた。
「今日も送ろうと思ってた」
「……べ、別に頼んでないし…」
思わず焦って言い返すと、兄がニヤッと口を上げた。
「ふーん…最近マメだよな?」
「気が向いただけ」
兄の視線がゆっくり凪と私を交互に辿る。
妙な沈黙が落ちた。
「……何か心配でも?」
凪くんが軽く仕掛ける。
兄は一拍置いてから、鼻でふっと笑った。
「いや――そういうことね、って感じ?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
(完全に…気づいてる…!)
凪はそんな私の反応を横目に、余裕そのままでさらに言葉を重ねた。
「んだそれ。まあそういうことでいいんじゃね?」
兄がじっと凪を見たまま、少し口元を緩めた。
「……自信あるな?」
「あぁ。任せろよ」
一瞬空気が張り詰めたまま、兄は肩を軽くすくめた。
「――じゃ、凪」
「悪いけど今日の送迎、お前に任せるわ。俺先帰る」
「ああ、了解」
そのあまりにも自然な流れに、私は完全に固まった。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
「ん?なんだ?」
兄はとぼけた顔で返し、そのまま車を走らせて去っていった。
残された私はゆっくり凪の方を向く。
「…な、…なにその顔」
凪くんは少し意地悪そうに目を細める。
「挨拶済んだからお前も楽になったかなって」
「っ!!」



