黒兎の相棒は総長でも止められない

学校が始まっても、私の頭の中はずっと落ち着かなかった。

(……昨日までが夢みたいで…)
(でもちゃんと現実で…)

授業を受けてても、ぼんやりしてしまう。

 

放課後、下駄箱で靴を履いていた時。

友達の沙耶が、ひょこっと隣に顔を出してきた。

 

「ねえ、最近さー…黒川、なんか雰囲気変わってない?」

 

「え?そ、そうかな…?」

 

「てか、凪くんと最近やたら会ってない?」

 

ドクンと心臓が跳ねた。

 

「そ、そりゃあ…兄の送り迎え頼まれてるだけだし…」

 

「ふぅーん…?ほんとぉ?」

沙耶がわざとにやっとして私を覗き込む。

 

「別に怪しいとか言ってないけどさ?こういうのってさ、誰かに話すと楽になるんだよ?」

 

「な、何もないから…!」

 

必死に言い返す私を見て、沙耶はニコっと笑った。

 

「ふふ。まあ…いつでも相談は乗るからさ?」

 

「……ありがと」

 

(…言えるわけない、まだ…)

 

心臓のドキドキを抑えながら校門を出ると
目の前には――やっぱりいつもの黒い車。

 

運転席の窓が下がり、低く落ちた声が耳に入る。

 

「乗れ」

 

「……凪くん」

 

周りの女子たちのざわめきは、もう慣れっこになっていた。
私は静かに助手席へ乗り込んだ。

 

ドアが閉まると、凪くんがちらっと横目で私を見る。

 

「……顔赤ぇな」

 

「な、なんでそうやってすぐ言うの…」

 

「だって、昨日思い出してんだろ?」

 

「~~っ!」

 

またすぐ顔が熱くなる。

縮こまる私を見ながら、凪くんがわざとらしく口元を緩める。

 

「素直になりゃいいのに」

 

「無理だってば!」

 

「昨日の続き…やりてぇの?」

 

「~~~!ほんと意地悪…」

 

凪くんはクスッと軽く笑った。
けど、視線だけは変わらず真っ直ぐ私を捉えてくる。

 

そのまま、少しの沈黙のあと――スマホが鳴った。

兄からのLINEだった。

【大丈夫だったか?今日、久々に飯でも行くか?】

 

(……やば…)

 

じわりと胸の奥がざわつく。
兄は――何かを少しずつ察してきているのかもしれなかった。