掴まれた手首。
耳を撫でられた感覚。
凪くんのすぐ近くの顔。

全部が近すぎて、もうまともに息すらできなかった。

ドクン、ドクン――
心臓の音が自分の耳の中で暴れてる。

 

「……七星」

 

凪くんが静かに名前を呼んだ。

それだけで胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 

「こっち見ろよ」

 

「……む、無理…」

 

「なんで」

 

「だって…顔見たら…なんか…無理だから…!」

 

言葉がもうボロボロだった。

視線をそらす私に、凪くんはわざと少しだけ顔を近づけてきた。

 

「別に何もしねぇって」

 

囁く声が耳の奥まで落ちてくる。

 

(……でも――もし今、もっと近づいてきたら…)
(私、多分――逃げられない…)

 

その考えが頭に浮かんだ瞬間、もう顔が熱くて仕方なくなる。

気づいたら、小さく呟いていた。

 

「……こうやってると、その…変なこと…考えちゃうから…」

 

凪くんの目が、ほんのわずか揺れた。

けどすぐに、ふっと柔らかく微笑んだ。

 

「……ふーん」

 

「別に。俺は――嫌じゃねぇけど?」

 

その一言が、まるで胸に直接突き刺さった。

 

「~~~~っ!!」

 

顔が熱くなりすぎて、思わず両手で頬を覆った。

 

「ば、ばかっ!!!」

 

凪くんは口元をわずかに上げたまま

「逃げんなよ」

掴んだ手首を、少しだけ強く引き寄せる。

 

さらに、耳元へ静かに低く落とされた声――

 

「そんな顔してさ」
「――ほんとは、逃げたくねぇんだろ?」

 

「~~~~っ!!!」

 

身体がビクッと跳ねた。

 

「ち、違…!!!」

 

言葉を遮るように、凪くんがそっと額を重ねるくらい近づいてくる。

鼻先が触れそうな距離。

呼吸すらまともにできなくなる距離。

 

「ほんとに?」

 

その囁きが、もう限界だった。

胸が熱く膨らんで、息が止まりそうになる。

ドクン、ドクン、ドクン――

身体中が、爆発しそうなくらい熱かった。