黒兎の相棒は総長でも止められない

あれから少しだけ時間が経った。

リビングの空気も、少しずつ落ち着いてはきたけど――

ドクンドクンとうるさい心臓は、全然落ち着かないままだった。

 

ふいに、凪くんが立ち上がる。


「とりあえず――先に風呂入ってこい」

 

 

「え?あ、うん…」

 

(当たり前だよね、寝る準備なら…)

(なのに…なんで普通のことなのにこんなドキドキしてんの…)

 

私は荷物を持ってバスルームに向かった。

 

お湯の音。湯気。静かな空間。

けど――全然落ち着けない。

頭の中はさっきからずっと凪くんのことばかり。

 

(今日助けてくれて…)
(こんな風に泊まることになって…)
(凪くん、なんであんなに普通にしていられるの…)

 

胸の奥がずっとドクンドクン暴れてる。

 

短めにシャワーを済ませ、急いで上がる。

濡れた髪をタオルで巻いたまま、パジャマに着替えてリビングに戻った。

 

凪くんはすでにソファに寝具を広げて準備していた。

私が戻ると、一瞬だけ視線を上げる。

 

「終わった?」

 

「うん…ありがと」

 

「おう

俺も入ってくるわ」

 

凪くんはバスルームへ向かいかけて、途中でふと立ち止まる。

振り返りざまに、少しだけ目を細めた。

 

「……覗くなよ?」

 

「は!?覗くわけないでしょ!!」

 

「冗談だって」

 

凪くんは口元だけ緩めて、バスルームのドアを静かに閉めた。

 

私はリビングに一人残り、また胸の音がうるさくなるのを感じた。

 

(ほんとにもう…なんなのこの空気…)

(緊張するのに、なんで嫌じゃないの…)

 

そのままソファで落ち着かないまま座っていたけど――

ふと視界に入ったのは、少しだけ開いた隣の扉。

 


(凪くんの部屋…?)

 

ほんの出来心で、私は立ち上がってそっと扉の前に立った。

 

(少しくらい…見てもバレないよね…?)

 

そして――
そっとドアを開けた。