黒兎の相棒は総長でも止められない





 

 

翌朝――

登校して教室に入ると、由梨と沙耶がすぐに駆け寄ってくる。

 

「七星〜!昨日、大丈夫だった?」

 

「……ん。まぁ、なんとか」

 

「だってさ、結構遅かったでしょ?」

 

「……まぁね。ちょっと鍵忘れて、家入れなくてさ」

 

由梨が「あ〜なるほど」って納得した顔をする。

 

「それで?お兄ちゃんが迎えに来たの?」

 

私は少し言いよどむ。

一瞬だけ、昨日の車内の無愛想な男――凪くんの無表情が頭をよぎる。

でも今それを言うのは、なんとなく面倒な気がして。

 

「ううん、まぁ色々あって……最終的には迎えに来てもらったけど」

 

沙耶がからかうようにクスクス笑う。

 

「お兄ちゃん相変わらずだね〜。また女の子たちと遊んでた?」

 

「……まぁ、うん。どうせそうだろうなって感じ」

 

自然とため息が漏れる。

 

「ほんとモテ男だよね〜!」

「七星のお兄ちゃんかっこいいもんね〜」

 

二人はひたすら楽しそうに茶化してるけど、私は内心少しげんなりしていた。

昨日のあの空気感……

家までの車内の無言。
文句言ったら返されたあの冷たい言葉。

 

『は?お前に興味なんてねぇし。兄貴の頼みだからだよ』

 

『あ?あいつの妹じゃなかったら今のマジ許してねぇからな』

 

正直、怖かった。
無表情で淡々と吐くあの感じ。

なのに――なんで今、頭に残ってんだか。

 

「……最悪だったわほんと」

 

「でも無事でよかったじゃん?」

 

「まあね」

 

今日も朝から友達は元気で騒がしくて
私は無理やり切り替えるように笑った。

 

だけど心の中では――
“なんでよりによって、あいつだったんだろ”
って、何度も同じことを考えていた。