黒兎の相棒は総長でも止められない

あれから数日。

あの雨の日の出来事以降、どこか私の中の感覚は明らかに変わってきていた。

でも…まだ自分ではちゃんと整理できていない。

 

そんな中、またお兄ちゃんからLINEが届いた。

 

──『明日の帰り、凪に頼んだ』
──『素直に乗っとけよ』

 

(……まただ)

 

もはや恒例。
でも今回は――

返信する指が、少しだけ震えていた。

 

──『わかった』

 

 

***

 

放課後。

校門を出ると、黒い車が静かに停まっていた。

いつも通り。

でも今日は、車に向かう足取りがどこか緊張してた。

 

ドアを開けると、凪くんが運転席に座っていた。

ちらっと目線を寄越して、口元を少しだけ緩める。

 

「……また?」

 

「まただよ」

 

「お前、俺に甘えすぎ?」

 

「それ、毎回お兄ちゃんが勝手に決めてるんだし」

 

「んー…まぁ、いいけど」

 

発進する車内。

いつもより少しだけ沈黙が長く感じた。

心臓がドクンドクンとうるさい。

 

何か喋らなきゃ――そう思った時。

 

凪くんがふっと口を開いた。

 

「この前の雨の日さ」

 

「……え?」

 

「連絡すんの迷っただろ」

 

「……うん」

 

「んで、ちゃんと俺に連絡してきたんだ」

 

私は思わずうつむく。

 

「…だって、お兄ちゃんが“頼れ”って言ってたし…」

 

凪くんは短く笑った。

 

「素直だな。珍しく」

 

「素直じゃないもん…」

 

「んじゃ、俺が迎えに行くの嫌だった?」

 

突然そんなことを聞かれて、胸が大きく跳ねた。

 

「……べ、別に。嫌じゃないけど…」

 

「ふーん…」

 

横目でこちらを見ながら、凪くんが少しだけ口角を上げた。

 

「じゃあ、次も指名な」

 

「は?」

 

「毎度ご指名ありがとうございます」

 

「い、意味わかんないし…!」

 

でも、言葉とは裏腹に
耳まで熱くなるのを自分で感じていた。

 

車内は静かだった。

でもそれ以上に
自分の胸の鼓動の音だけが響いていた。

 

(……あ、これ…)

(もう誤魔化せないかもしれない)