数日後の夜。
リビングでスマホを見ていると、お兄ちゃんからLINEが届いた。
──『明日の帰り、また凪に頼んだ。』
──『いつも通り、素直に乗っとけ。』
(……また?)
最近はもうこのやり取りが当たり前になりつつある。
以前ほど「嫌だな」とは思わなくなったけど、やっぱり妙に気を使ってしまう。
(……慣れたってだけで、別に…)
自分に言い聞かせながら、短く返事を打った。
──『わかった』
放課後。
校門を出ると、黒い車が静かに停まっていた。
ドアを開けると、凪くんが運転席に座っていた。
ちらっとこっちを見て、口元をわずかに緩める。
「……また俺指名か?」
「……私じゃないし。お兄ちゃんだから」
凪くんは前を向いたまま小さく笑った。
「お前もなかなか変わってんな」
「知らないし!」
ハンドルを握りながら、凪くんがふっと声を低くする。
「……惚れんなよ?」
「はあ!?」
思わず声が上ずった。
凪くんはわずかに笑って前を向いたまま続けた。
「冗談だって」
「……意味わかんないし!」
「お前、ほんとわかりやすいよな」
「わかりやすくない!」
凪くんはそのままクスッと短く笑う。
「……ま、俺も面倒じゃねぇから別にいいけど」
車内の空気は、いつもより少しだけ軽くなっていた。
けど――
私の胸の奥だけは、なんだかずっと落ち着かなかった。



