翌日の放課後
教室を出ると、既に校門前に黒い車が停まっていた。
運転席の窓越しに凪くんの横顔が見える。
私は小さく息を吐いて、助手席のドアを開けた。
「……お疲れ」
凪くんは軽く視線を向けてきた。
「乗ったか」
私は黙ってシートベルトを締めた。
車は静かに発進する。
「……わざわざごめんね。いつも面倒かけて」
「別に」
無駄な会話は相変わらず少ない。
でも前よりも、この沈黙に嫌な感じはしなくなってきていた。
少しだけ窓の外に視線を向ける。
街灯の隙間を縫って走る車の中、ふと違和感が胸をよぎった。
(……?)
暗い路地の入り口に、数人の男たちが溜まっているのが一瞬だけ見えた。
派手な格好に、刺繍の入ったジャケット。
私の胸がドクンと跳ねた。
(あれ……他所の人たち…?)
その瞬間、凪くんがハンドルを握る手にわずかに力を入れたのがわかった。
「……見なくていい」
低い声でそう言った。
私は驚いて凪くんを見た。
「知ってる人たち……?」
「ああ」
短くそれだけ返して、凪くんは慎重に視線を動かしながらスピードを緩めずに通り過ぎていった。
車内がまた静かになる。
けれどさっきまでの沈黙とは違い、妙な緊張感が漂っていた。
私は小さく息を呑んだ。
「……怖くないの?」
凪くんは前を向いたまま答えた。
「怖さなんてもう感じなくなる」
「……どうして?」
「感じてたら、とっくに潰されてる」
その言葉の重さに、私は何も返せなかった。
ゆっくり車は家の前に停まる。
エンジンが止まった音が、妙に響いた。
私はシートベルトを外しながら、小さく「ありがとう」と呟いた。
ドアを開けようとした瞬間――
凪くんの静かな声がもう一度響いた。
「――お前も、もっと危機感持てよ」
私は振り返って凪くんの目を見た。
さっきまでの冷たさではなく
どこかにわずかな優しさと本気が混ざった目だった。
「……わかった」
それ以上、言葉は続かなかった。
私はそっとドアを閉め、玄関のドアを開けながら
自分の胸が少しだけ早く脈打ってるのを感じていた。
教室を出ると、既に校門前に黒い車が停まっていた。
運転席の窓越しに凪くんの横顔が見える。
私は小さく息を吐いて、助手席のドアを開けた。
「……お疲れ」
凪くんは軽く視線を向けてきた。
「乗ったか」
私は黙ってシートベルトを締めた。
車は静かに発進する。
「……わざわざごめんね。いつも面倒かけて」
「別に」
無駄な会話は相変わらず少ない。
でも前よりも、この沈黙に嫌な感じはしなくなってきていた。
少しだけ窓の外に視線を向ける。
街灯の隙間を縫って走る車の中、ふと違和感が胸をよぎった。
(……?)
暗い路地の入り口に、数人の男たちが溜まっているのが一瞬だけ見えた。
派手な格好に、刺繍の入ったジャケット。
私の胸がドクンと跳ねた。
(あれ……他所の人たち…?)
その瞬間、凪くんがハンドルを握る手にわずかに力を入れたのがわかった。
「……見なくていい」
低い声でそう言った。
私は驚いて凪くんを見た。
「知ってる人たち……?」
「ああ」
短くそれだけ返して、凪くんは慎重に視線を動かしながらスピードを緩めずに通り過ぎていった。
車内がまた静かになる。
けれどさっきまでの沈黙とは違い、妙な緊張感が漂っていた。
私は小さく息を呑んだ。
「……怖くないの?」
凪くんは前を向いたまま答えた。
「怖さなんてもう感じなくなる」
「……どうして?」
「感じてたら、とっくに潰されてる」
その言葉の重さに、私は何も返せなかった。
ゆっくり車は家の前に停まる。
エンジンが止まった音が、妙に響いた。
私はシートベルトを外しながら、小さく「ありがとう」と呟いた。
ドアを開けようとした瞬間――
凪くんの静かな声がもう一度響いた。
「――お前も、もっと危機感持てよ」
私は振り返って凪くんの目を見た。
さっきまでの冷たさではなく
どこかにわずかな優しさと本気が混ざった目だった。
「……わかった」
それ以上、言葉は続かなかった。
私はそっとドアを閉め、玄関のドアを開けながら
自分の胸が少しだけ早く脈打ってるのを感じていた。



