数日後――

夜、部屋で学校の課題をしているとスマホが鳴った。

画面には【お兄ちゃん】の文字。

 

私は小さくため息をついて通話ボタンを押した。

 

「……なに?」

 

『明日さ、ちょっと俺予定詰まってんだよな』

 

「うん?」

 

『夜、帰り少し遅くなるだろ?また凪に頼むから。迎えに来てもらえ』

 

「……また?」

 

『ああ。最近街も少し落ち着いたとはいえ、用心はしておくに越したことねぇ』

 

「別に私、もう大丈夫だけど」

 

『いや、お前は“もう大丈夫”って言うけど、俺は“まだ危ない”と思ってる』

 

兄の声はいつになく淡々としてた。
抗争の件以来、やっぱり兄の中で何かが慎重になってるのがわかる。

 

『凪もその辺ちゃんと動けるし、俺としては安心なんだよ』

 

「……わかった」

 

『じゃあ明日な。素直に乗れよ?』

 

「……わかってるって」

 

通話が切れたあと
私はスマホを伏せて、少しだけ考え込んだ。

 

(また凪くんか…)

 

正直、前までみたいに「嫌だな」っていう気持ちは
もうそんなに強くない。

むしろ――

少しだけ、何を話そうか考えてる自分がいた。

 

(……何言ってんの、私)

 

わざと大きく息を吐いて、課題に視線を戻す。

でも頭の中は
結局また、凪くんのあの時の姿が浮かんでいた。