翌日。

学校はいつもと変わらず、賑やかだった。

友達と他愛ない話をして、授業を受けて、お弁当を食べて。
そうやって普通に過ごしているはずなのに――

 

ふとした瞬間に、昨夜の光景が頭の中に浮かんでくる。

 

あの広場。
照明の薄暗い中で睨み合う男たち。
鋭く飛び交う怒号。
乱闘の音。

 

兄の姿。

そして――

凪くんの姿。

 

冷静に、無駄なく、静かに動き続ける凪くん。
何人もの男たちを淡々と捌いていく姿が
今も鮮明に焼き付いている。

 

(……なんで、こんなに思い出すんだろ)

 

教科書をめくりながらも、全然頭に入ってこない。

昨日の帰り道、凪くんが窓越しにかけた言葉がふとよみがえる。

 

『……平気か?』

 

短い一言だったけど
今思い返しても、なんだか胸の奥がじんわりと熱くなる。

 

(あの時の目、いつもと少し違ってた気がする…)

(いや…違わない…気のせい…)

 

自分で考えたくなくて首を振った。

でも、授業が進むにつれて
また自然と凪くんの姿が浮かんでくる。

 

あんな風に戦ってる姿なんて、今まで知らなかった。
普段の無愛想で、無表情で、冷たいイメージとは違う。

 

(……なんか、すごかった…)

 

私の胸がほんの少しだけ、ドクンと脈打つ。

その感覚がなんなのかは
まだ自分でもよくわかっていなかった。