文化祭の朝。
校内には、ポスターと装飾の色があふれていた。
(あの美術室で、もっちゃんと先生と並んだ光景)
(あれが、現実の一枚になって……貼られてる)
コメは、廊下に並んだポスターの前で立ち止まった。
心は晴れなかった。
「コメ!」
カオリの声。
振り返ると、相変わらず明るくて、そして今日もかわいかった。
「ねぇねぇ、渡部先生知らない? 文化祭委員の集まりとかで会ってない?」
「あ……さっき美術室の方にいたよ」
「やっぱそっちか〜! もっちゃんのとこね。仲良しだなぁ!」
冗談っぽく言うけど、
カオリの矢印の色が変わったのを、コメは感じた。
少し前までのそれは明るく、キラキラしたピンクだった。
でも今は――鈍く、冷えた紫がにじんでいる。
カオリは笑ったまま、言葉を続けた。
「先生ってさ、昔からマイペースだけど、意外と情あるとこあるし」
「……」
「1年のときね、私ちょっと落ち込んでたことがあって。放課後、屋上で泣いちゃってたの。そしたら先生が来てさ」
「……屋上?」
「うん。なんか、たばこ吸いに来てたっぽい雰囲気だったけど。言わなかったけどね、私。秘密にしてあげた」
(屋上――私が最初に出会った場所)
自分だけが知っていたと思ってた「秘密」が、
急にぐしゃっと、普通の思い出になっていく。
「先生って、そういうとこあるから。ちゃんと見てるし、ちゃんと選ぶんだよ。誰に何を与えるか」
「……」
「コメは、どうなんだろうね?」
そう言って、カオリはクスッと笑う。
伸びた矢印は――
赤く、歪んで、コメの胸に突き刺さってきた。
カオリは続ける
「ねえ、コメちゃんってさ――先生のこと、好きなんでしょ?」
コメ
「……な、何の話?」
カオリは笑ってるけど目が笑ってない
コメ(言葉が詰まる)
カオリ(一歩近づいて)
「私、1年の時からずっとそばにいたんだよ? 先生の全部、見てきたんだよ?」
「たかが転校生がちょっと特別扱いされたくらいで、なに勘違いしてんの?」
カオリのベクトル、完全に“嫉妬”の真紅に染まる
「……私、そんなつもりじゃ……」
カオリ(にっこり)
「あーあ!このポスターの先生は私が描いたんだよって言って褒めてもらおうと思ったのにな。美術室でもっちゃんといるなら、またあとでにしよっと。」
そう言って、カオリはすっと背を向けて去っていく
……見えちゃった、あの赤。まっすぐで、強くて、こわい色
「私は……何をしてるんだろう」



