君と紡いだ奇跡の半年





 表彰式を終えたあと——

 奇跡のような延長戦は、静かに少しずつ終わりに近づいていった。

 体調は日に日に落ちていったが、不思議と心は穏やかだった。

 もう十分すぎるほど、生き切ったと思えたからだ。

 それでも——

「なあ、湊。退院したら、もう一度だけ音楽室行こうぜ」

 真が冗談のように言った。

「うん、最後にまた3人で合わせたい」

 紗希も涙ぐみながら笑った。

 俺は、弱々しくも力を込めて頷いた。

「……行こう。必ず」



 そして奇跡は、最後の力をくれた——

 短時間ではあったが、医者の許可も出て、3人で音楽室に入ることができた。

 あの日々が甦る、懐かしい空間だった。

 俺は車椅子に座りながら、膝の上にそっとギターを抱えた。

 真はベースを持ち、紗希はキーボードの前に立つ。

「——最後のセッション、始めよう」

 俺の声に、二人は静かに頷いた。

 ギターのコードをゆっくり鳴らす。

 紗希の優しい旋律が重なり、真のベースが支える。

 まるで時間が止まったようだった。

『たとえ終わりが来ても——君と描いた景色は消えない』

 かすれる声で、精一杯歌った。

 涙が止まらなかった。

 紗希も真も、声を震わせながら必死に音を重ねてくれていた。

 最後のコードが静かにホールに響き渡り——

 しばらく誰も言葉を発さずに、ただ音の余韻に浸っていた。

「……ありがとう」

 俺は静かに呟いた。

「こっちこそ、ありがとうだよ」

 紗希が、そっと俺の手を握った。

「湊……俺たち、最高のバンドだったよな」

 真の声も震えていた。

「……ああ。世界一のバンドだった」

 胸の奥が、温かさと切なさでいっぱいだった。

(これ以上の幸せは、きっとない)



 それから——

 俺は静かに、穏やかに、少しずつ眠りにつく日々を迎えていった。

 紗希も真も、家族も——ずっとそばにいてくれた。

 夢のように眩しかったあの日々を思い出しながら——

 最後の瞬間まで、俺は音楽に包まれていた——

 微笑んだまま、ゆっくりと目を閉じた——



 空は、柔らかく晴れていた——。