表彰式を終えたあと——
奇跡のような延長戦は、静かに少しずつ終わりに近づいていった。
体調は日に日に落ちていったが、不思議と心は穏やかだった。
もう十分すぎるほど、生き切ったと思えたからだ。
それでも——
「なあ、湊。退院したら、もう一度だけ音楽室行こうぜ」
真が冗談のように言った。
「うん、最後にまた3人で合わせたい」
紗希も涙ぐみながら笑った。
俺は、弱々しくも力を込めて頷いた。
「……行こう。必ず」
*
そして奇跡は、最後の力をくれた——
短時間ではあったが、医者の許可も出て、3人で音楽室に入ることができた。
あの日々が甦る、懐かしい空間だった。
俺は車椅子に座りながら、膝の上にそっとギターを抱えた。
真はベースを持ち、紗希はキーボードの前に立つ。
「——最後のセッション、始めよう」
俺の声に、二人は静かに頷いた。
ギターのコードをゆっくり鳴らす。
紗希の優しい旋律が重なり、真のベースが支える。
まるで時間が止まったようだった。
『たとえ終わりが来ても——君と描いた景色は消えない』
かすれる声で、精一杯歌った。
涙が止まらなかった。
紗希も真も、声を震わせながら必死に音を重ねてくれていた。
最後のコードが静かにホールに響き渡り——
しばらく誰も言葉を発さずに、ただ音の余韻に浸っていた。
「……ありがとう」
俺は静かに呟いた。
「こっちこそ、ありがとうだよ」
紗希が、そっと俺の手を握った。
「湊……俺たち、最高のバンドだったよな」
真の声も震えていた。
「……ああ。世界一のバンドだった」
胸の奥が、温かさと切なさでいっぱいだった。
(これ以上の幸せは、きっとない)
*
それから——
俺は静かに、穏やかに、少しずつ眠りにつく日々を迎えていった。
紗希も真も、家族も——ずっとそばにいてくれた。
夢のように眩しかったあの日々を思い出しながら——
最後の瞬間まで、俺は音楽に包まれていた——
微笑んだまま、ゆっくりと目を閉じた——
*
空は、柔らかく晴れていた——。



